8. 歓声に、はっとする。――バトルの開始だ。 「園長、えらく張り切っていたのぉ。さて、どんなモンスターを出してくれるのやら」 「おい、じいさん。何で戦争が嫌いなくせに、闘いを見るのは好きなんだ? 矛盾してないか」 「それは違うぞ、坊や。わしは、人が能力の限界に挑戦する姿を美しいと思っとる。闘いは、それが一番はっきり現れるからのぉ。このバトルにしたことろで、死人が出るわけじゃない。これが戦争なら、そうはいかん。大体、戦争というのは、互角なものがやり合うことは少ないんじゃよ。大概強い者の一方的な都合で、始まるもんじゃ。わざと挑発して、弱い者から宣戦布告させるとか――な」 「覚えておくよ、いまの言葉」 「役に立ちそうかね?」 「できれば、役立たせたくないさ。でも、知っていて損はない」 そう言って軽く肩をすくめたルーファウスに、リーブはゾクッとした。 (この方は時々、父上よりも恐ろしいと感じる時がある。真面目な話、プレジデントの息子に生まれなかったとしても、いつか権力の座につくことだろう。この方がそう望んだなら、の話だが) 「あ! マンドラゴラ二体とカームファング一頭だ。――どうする気だろう?」 その答えは、すぐ示された。炎がモンスターを包み込む。一瞬のうちに、勝負がついた。――二回戦へ進出だ。 「なるほど……。カームファングは、火に弱い。炎のマテリアに、どうやら全体化のマテリアをつけたらしいな」 「楽勝じゃったのぉ。しかし、次はそういくかな? ハンデがつくはずだぞ?」 スロットが回る。一瞬、すっと目を細めたツォンが停止ボタンを押す。 「――レベル5ダウンか!」 叫んだリーブに、会長は笑った。 「ま、無難なとこじゃのぉ。マテリアが使えなかったり、アイテムが封印されたりしたら、目も当てられんて」 「今度は、プラウラーだ。また三体いるぞ」 「また楽勝かのう?」 「いや、レベル5ダウンですから……それはどうか」 リーブの心配した通り、さきほどのように一撃で仕留めるわけにはいかないようだ。魔法は使わず、銃で片をつけようというつもりらしい。銃声が響く。――が、何か変だ。 「なあ、攻撃の回数――おかしくないか?」 「ルーファウス様も、気づかれましたか?」 「どうも、ヤツらの倍は攻撃してるような気がするぞ。どういうことだ?」 「わしには、わかったぞ。リーブ君、彼はさっき、銃に独立マテリアをはめていなかったかね?」 「ああ、そういえばピンク色の。それが、何か?」 「カウンターじゃよ」 「――!」 「カウンター?」 首を捻るルーファウスに、会長はわかりやすく説明してやった。 「つまりな、攻撃を受けると、勝手に反撃してくれるシロモノじゃよ。これなら、攻撃回数が増やせるじゃろう?」 「マテリアって、いろいろな種類があるんだな。なるほど、便利なものだ」 感心するルーファウスに、会長は苦笑いした。 「おいおい、魔晄屋の息子が何を言っとるのかね。本来電気に代わるエネルギーとして登場した魔晄を兵器に応用したのは、坊やの父親だぞ? もっとも、魔晄を人工的に冷却・凝縮してマテリアに結晶させる技術を開発したのは、坊やの母方のお祖父さんの会社だがね」 「――そうなのか!?」 「知らなかったのかね? その特許を手に入れるために、坊やの父親はキーヤ嬢ちゃんと結婚したんだ。わしは、嬢ちゃんのおやじさんとは古い付き合いだった。それで、この結婚には反対したんだ。だが、聞き入れてはもらえなかった。まあ、嬢ちゃんは一人娘だったからな。誰か婿を迎えなきゃならなかった事情は、よくわかるさ。しかしな……。よりによって、あの男を選ぶことはなかったんだ」 ルーファウスの顔が、青ざめている。 「リーブ……いまの話、本当なのか? オヤジは、そのためだけにお母様と!?」 その問いには答えたくなかったのか、リーブは遠い目をして語る。 「私は、キーヤ様のお父上の会社で働いていたんです、もともと……。貧しい出の私は、ろくに学校へ行くこともできなくて。それでも、どういうわけか機械いじりが大好きで。ある時、私の作ったものが旅行にいらしていたキーヤ様の目に留まったんです。それから――あの方が社長であるお父上を説得して下さって、私は大学まで出してもらえることになったんですよ。卒業後はお父上の会社で働くことを条件にね」 「――そんなことがあったなんて。お母様は、一言も」 「お優しい方ですから。重役にまでなった私が、スラム育ちでは聞こえが悪かろうと。そう、思われたようです。もっとも、あの方ご自身は財産や家柄で人を差別するようなことなど、全くありませんでしたよ」 「そうそう。あの嬢ちゃんは、そういう娘じゃ」 「お母様……お母様のお父様が、通信と電力供給を一手に引き受けていた大企業の社長だって話は聞いてる。僕が生まれた年に、確か事故で亡くなられたんだ――」 「フン。事故、ね。さっきの話じゃないが、タークスの主任も事故死してる。坊やの父親の会社は、ずい分業務上災害の多いことだ」 「――会長!」 「リーブ!」 それ以上語らないで下さい。そう言いたげなリーブを、ルーファウスは一喝した。 「お祖父様は……事故で亡くなられたんじゃないんだな? まさか、オヤジの奴」 「それを調べるには、坊やはまだ幼い。時と方法をよく考えることだ。坊やが下手に動けば、迷惑のかかる人間がいるじゃろう?」 そう言って、会長はあごでツォンを指した。 「わかった。いまは、我慢する。でも、いつか――いつか暴いてやる。お母様、お祖父様、ツォン……オヤジに関わると、みんな不幸になるんだ。みんな……」 怒りのために、顔が赤い。握りしめた手が、やり場のない思いではちきれそうだ。 「――その怒りがわかるのなら、坊やは何故神羅に反対するテロリストグループが潰しても潰しても生まれてくるのか、わかるはずだな? こんなことは、もう終わりにすべきなのだ。力を求める者は、力によって滅ぼされると相場が決まっているのだからな」 「こんなこと、誰も教えてくれなかった。いままで、誰も。ありがとう、じいさん。ここに来て、よかった。僕は何も知らないで、大切な人達を傷つけてしまうところかもしれなかったんだな」 振り絞るようにして言う言葉に、リーブは思わず目頭が熱くなった。 「さて、と。湿っぽいのは、わしゃ苦手でな。バトルの方は、どうなっとるんだ?」 「三回戦は『防具壊れる』のハンデで、グランガランに楽勝でしたよ」 「おお、園長。やはり、思った通りだ。あの男、なかなかやる」 「少し、モンスターが弱すぎましたかねえ……。一応彼のレベルに合わせると、あの位が適正基準なんですがね」 「四回戦のハンデは、と……。おお、『トード』か」 「レプリコンに、ムーが三体。フム、どうってことないな」 「あ、ほら。万能薬を使ってますよ」 「蛙ときたら、普通『乙女のキッス』じゃないのかね? 全く。神羅はあんなもの社員に持たせてるのか。金持ちだな」 「いや、園長。タークスの中でも、彼は特別ですから」 冷や汗をかきつつ、リーブが答える。 「あ、ブリザラを使った。――あれ?」 「何だかいま、レプリコンを倒す時……もやが流れたような?」 「それにしても、エーテルでMPを回復させないと、もう魔法は使えないだろう」 「ハハハ……。園長、あれを見てみたまえ」 「何ですか、会長。――おおっ!」 「『マジックハンマー』だ。ツォンの奴、いつの間に!?」 「どういうことだ? 誰か、説明してくれないか」 「坊や、『敵の技』というコマンドマテリアがあるのは知ってるかね?」 「――?」 「そのマテリアを付けている時にモンスターに襲われるとな、『ラーニング』といって、敵の魔法を覚えて使うことができるようになるんじゃよ。いまのは『マジックハンマー』といってな、MPを3使って敵から100奪う方法じゃ。MPを吸い取られた敵は、魔法攻撃ができなくなる。自分は、アイテムを温存できる。実に省エネな話だろう?」 「スゴイんだな……。あいつ、やっぱりスゴイや」 「ムー二体で、104か。ちょうどいい補給になったな」 「じゃあ、さっきのレプリコンの時のもやは何だ?」 「恐らく冷気のマテリアと組にして、HP吸収のマテリアをつけたんでしょう。四回戦までは、比較的勝ち残る者が多い。だが、見ていると五回戦から先はハンデも増えて、なかなか難しいようです。ここで、準備を整えたかったんでしょう。――ほら」 「『マイティガード』だ。うーん、やるな!」 唸るディオに、ルーファウスは説明を求めた。 「『敵の技』にラーニングさせてある魔法の一つだよ。バリアとマバリアとヘイストが、同時にかかる。頭脳プレイだな」 「こうなると、むしろ心配なのはハンデだな」 「その嬉しそうな言い方……。会長、彼が勝つところが見たいんですか。それとも、負けるところが見たいんですか!?」 「どっちもじゃよ」 「見ろ! スロットだ。『魔法マテリア、壊れる』。おい! 大丈夫なのか!?」 「ルーファウス様、そんなに身を乗り出さないで下さい。危ないですよ!」 「タッチミーが五匹も! ――『カエルのうた』でもくらったら、アウトだぞ!? さて、どうするね、ツォン君?」 その時、ツォンの身体を赤い光が包み込む。 「――召喚マテリアか!」 呻くディオに、ああ、と言いたげにポンと手を打つリーブだ。 「『斬鉄剣』か。派手なことをする」 「リーブ君、あれは何だね?」 「『オーディーン』のマテリアを付けていたようですね。かわいそうに。タッチミーの奴ら、あれじゃ即死です」 リーブがそう言う間に、勝負はついていた。 「――なるほど、一撃必殺だな」 妙に納得した様子のディオと会長である。 「六回戦のハンデは……『独立マテリア、壊れる』か。ふむ。となると、カウンターは使えんな」 「対戦モンスターは、と。――シーウォーム!? おい、ディオ園長」 「いやあ、この位のモンスターでないと、きっと面白くないですよ。大丈夫。負けても、死ぬわけじゃないですからな」 「わしはミディールの人間だから、あれに関しちゃよく知っとるよ。HPが9000もあって、無効ステータスも数多い。冷気には弱いが、魔法マテリアはいま使えんのだぞ?」 「彼に何かあったら――プレジデントに申し訳が立たない」 青ざめるリーブに、ルーファウスは不審の声を上げる。 「ちょっと待て。いまのは、どういう意味だ!?」 「文字通りです。タークスは治安維持部門統括のハイデッカーが責任者ですが、直接のボスはプレジデントです。そういうことです」 「ほれほれ。坊や、そんなに心配ならよく見てることだ。幸い、『敵の技』は使える。オーディーンもな」 「『ストップ』だ。金の砂時計を使ったな。何をする気なんだ?」 「なるほど。彼は、シーウォームを見るのが初めてらしい」 「『見破る』ですか……! うーん、武器といい防具といい、マテリアの付け方といい、実にム ダがないな。――全く、とんでもない人間を抱えてるものだな、神羅は」 「その意見にはわしも同感だね、園長。彼は、特に敵に回したくない人間だな」 「あ、魔法だ!」 「『アクアブレス』か……。なるほどな」 「冷気系の魔法が、ラーニングされていないんだな。それで水属性の魔法じゃどうだ、というわけだな」 「マジックハンマーで、MPは問題ないしな」 「勝負、あったな」 「参ったね……。こんなねばり強い出場者、初めてだぞ」 「おい、園長。七回戦のモンスター。一体何なんだ?」 「ミドガルズオルムですよ。シーウォームに比べれば、問題ないでしょう?」 「園長! ――ツォンを殺す気か!?」 「ル、ルーファウス様、落ち着いて下さい。ほら、勝ちましたよ」 「全く……! それで、今度は何のハンデだ?」 「あ……」 「『アクセサリー、壊れる』。うーん、ステータス異常を心配しなくていい敵だから、まあまあってことかな?」 「そんな、のんきなことを。ルーファウス様が睨み付けてますよ、園長!」 「ハハハ……すまんすまん。だがなあ、普通ハンデがもっとキツイものだぞ、ここまで勝ち進むと。中には『マテリア、全部壊れる』なんてのもあるんだからな。ありゃ運だけじゃないな。人の止め方を見て、相当タイミングをはかっているに違いないぞ?」 「タークスの本領発揮、ですね。何せ『総務部調査課』ですから」 「おや? オーディーンは使わないのか?」 「ラストまでとっておくつもりなんでしょう。アイテムを取り出してますよ」 リーブとディオは、同時に声を上げた。 「あれは、『ボムのかけら』!」 「ほほう。それはまた派手じゃのう。ほれ坊や、心配はいらないらしいぞ?」 投げ付けられたボムのかけらは、大爆発を起こした。閃光が、ルーファウスの目を焼く。 「うわっ!?」 「目は閉じていて下さい、ルーファウス様!」 「言うのが遅いよ、リーブ! 真っ白だ! 何も見えない!」 「しばらくすれば、治りますよ。一時的なものですから」 「バカ! それじゃツォンが見えないじゃないか! いまどうなってる!?」 「ふむ。さすがにボムのかけらは、あれ一つのようじゃのう。しかし、よくもいろいろ持ってるものだ」 「全く。雷撃鳥の角、火屯、雷迅――ウータイのものじゃないか。どうやって手に入れたんだか」 ブツブツと呟いているリーブを、ルーファウスはいてもたってもいられない様子で揺さぶる。 「まだモンスターは死んでないのか!?」 「ええ。かなり弱ってますけどね。それは、ツォンも同じなんで」 「回復魔法が使えんからのう。エクスポーションで一度回復はさせとるが、ちとキツイの」 「しかし、坊っちゃんも難儀だな。その青い目、見てる分には実にキレイだが――。我々のような暗い色調の目の方が、こと強い光に対しては耐性があるらしい。サングラスは、必需品にした方がいいぞ?」 「ああ、そうするよ。くそっ! 僕だって、好きでこんな肌や髪や目の色に生まれついたわけじゃない……!」 悔しがるルーファウスを見て、ディオは首を捻りつつリーブに尋ねる。 「おい、部長さん。坊っちゃん、もしかしてこんなキレイな顔してコンプレックス持ってるのか?」 苦笑して、リーブは言う。 「ええ、まあ……。女の子みたいにかわいいのも、考え物でしてね。あれで気にしてるんですよ。もっと強くなりたい、とね」 「そりゃまあ、スラムにでも生まれていればヤバかったろうなあ。しかし、あんた達みたいな守る奴らに事欠かない生まれじゃないか。むしろ、ゴツイより都合がいいだろうに?」 鍛え上げた肉体を誇示してはばからないディオが言うと、何だか妙におかしい。プッと吹き出した会長とリーブに、ようやく目が見えるようになったらしいルーファウスが、くってかかる。 「ただ人に守られるだけだなんて、そんなのガマンできない!!」 肩で息をしているルーファウスは、顔を真っ赤にしていた。本人には自覚がないようだが、そんな彼は抱きしめたいほどかわいい。同時に笑い出した大人三人に、頭から湯気の出そうなルーファウスである。 「――何がおかしい!?」 「いえ……あなたは、本当にかわいいですよ。それに、素直ですしね」 「お前、ケンカ売ってるのか? リーブ、忘れるなよ。いまは子供だけど、僕だってあと十年もすれば――」 「はいはい。副社長にはおなりでしょうね。神羅は、同族会社ですから」 「トゲのある言い方じゃないか」 「そりゃそうです。プレジデントがいる限り、あなたはただの飾り物ですから」 痛い所を突かれて、グッと詰まるルーファウスだ。そんな彼を、リーブは肩に両手をおいて静かに諭す。 「いいですか。これからの年月をどう過ごすか。あなたは、それをよく考えなければいけませんよ。飾り物と言われるのが嫌ならば、地位にふさわしい中身を持つことです。人の上に立つというのは、決して楽しいことばかりではありませんよ。あなたがプレジデントを嫌いなのは、重々承知しています。わかった上で、言わせていただいてるんです。人を批判するのは、たやすい。批判だけなら、口先のこと。誰だってできるんです。あなたがいま父上に対して取っている態度、これがそうです」 いつにない厳しいリーブの言葉に、ルーファウスも何か感じるところがあるのだろう。癇癪も起こさず、おとなしく耳を傾けている。それを確認すると、リーブはホッとしたように話を続けた。 「私が……いえ、私達があなたに望んでいるのは、行動です。建設的な意思をお持ちになって下さい。何かに反対するのならば、代替策をお示し下さい。ただ『イヤだ』と言ったところで、誰も説得はできません。例えば、ルーファウス様はミッドガルがお嫌いですよね。それなら、どういう暮らしがいいとお考えなのですか。魔晄エネルギーを使うのをやめるなら、また元の火力発電に戻ればいいと? しかし、あれは大気汚染が問題になった方法ですよ。大勢の人々が、公害に苦しんでいたんです……。だから、魔晄エネルギーが発見された時、我々は飛びついてしまった。水も空気も汚さないですむ、無尽蔵のクリーンなエネルギーを遂に発見したのだと――。そうではなかったことに気づいたのは、ごく最近のことですが」 「僕にどうしろと言うんだ?」 「考えることをやめないでいただきたいのです。一人で悩め、ということじゃありませんよ。私達も、一緒に考えますから。でも、あなたが独裁者になるおつもりなら――私の言葉など、無視していただいて結構です。父上と同じ道を歩かれるといい」 「そんな……そんなの、嫌だ……!」 「それを聞いて、私も安心しました。あなたの父上、プレジデントだって、最初からああではなかったんですよ。そう、少なくともミッドガル建造計画を私が思いついて、周りの友人全てがそんなバカげた計画、実現できるわけがない。そう鼻で笑う中、あの方はただ一人、信じていた。『技術的なことはともかく、お前がやれるというんだ。あとは資金と組織だろう? それは俺に任せろ。お前は、エンジニアなんだからな。金の心配より、スタッフになる人材の方を頼む。どいつが使い物になって、どいつが使えないのか。それは俺にはわからん』あなたには信じられないことでしょうが、私が大学で都市工学を勉強している時、経済学を勉強していたあなたの父上は、そう言われたんですよ。いまから、二十二、三年前のことになりますか……」 「ウソだろう!? あの拝金主義者が、そんな――」 「悲しいことですが、事実です」 首を振って、微笑んだリーブ。その表情は痛々しいものだった。 「大切な人を、死によって失うのは確かに辛いものです。だが、生きながら永遠に失わなければならないのは――もっと辛い」 「……」 「あなたまで失うのは、もう耐えられそうにありません。お願いです。どうか、父上と同じ轍を踏まないで下さい」 彼の目から、はらはらと涙がこぼれた。リーブが泣くのを見るのは、お母様が亡くなった時と、これが二度目だな……。そう思いながら、ルーファウスはふと閃いた言葉を口にした。 「『魔晄の光で、明るい世界を!』がうちの標語だったな。でも、何だかこうしてみると、魔晄エネルギーに関わった人間達は幸せじゃないんだな。お前もか? リーブ、お前も……幸せじゃないのか?」 真摯なルーファウスの態度に、リーブは姿勢を正して答えた。 「少なくとも、私とツォンは不幸なだけではありませんよ。私達には、ある希望を大切に育てていくという楽しみがありますから」 「あ……!」 シューティングコースターでの出来事を思い出し、ルーファウスは自分に寄せられた期待の大きさにめまいがした。 「でも……でも、だ。そいつが期待通りに育たなかったら、どうするつもりだ!? それに、以前本で読んだぞ。『膨らみ過ぎた希望は、絶望の裏返し』ってね。第一、いまに絶望してるからってそのツケを勝手に希望につけるなよな。希望だっていい迷惑だ」 自分の立場をこれほどに理解しているのなら、道を誤ることはないさ――。 そう考える三人だった。 |