ある教授の日記


 明日から九月だ。また一年が始まる。このところ校長のお陰で、なかなか忙しい日々を過ごしている。例の、人騒がせなポッターの息子が入学してくるというので、ダンブルドアは気を張り詰めているようだ。
 例の物の保管にも、頭が痛い。それもこれも、全ては奴のせいだ。
 それにしても、今学期こそはクィレルに代われると思っていたのに。――まあ、いい。取りあえず、講義の準備をしておかねば。
 毎年のように大勢の学生が入ってくる。だが、その中のほんの一握りの者だけが、我が言葉を理解する頭脳を持つのだ。あとは、カボチャだ。中身をくり抜かれた、ハロウィーンのランタンカボチャ。
 語って聞かせるだけ無駄なカボチャ共に、貴重な時間を割かねばならないとは。苦痛以外の何物でもない。
 ポッター……。奴は、ジェームズに似ているだろうか。せめて、リリーの方に似てくれたことを祈りたいものだ。
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 奴が大広間に入ってきた瞬間、時が巻き戻ったような気がした。
 一目でわかった。あのおさまりの悪い黒髪、緑色の目。生意気なところまで、ジェームズにそっくりだ。リリーに似ているのは、明るい緑の目だけだった。何が気に入らないのかわからないが、クィレルと話している時、ずっとこちらを睨め付けていた。
 組分け帽子はどうやら最初、奴を我輩の寮に入れようとしたらしい。長い時間がかかった。しかも、奴は椅子にへばりついて、何やら必死な表情だった。帽子が告げた寮では、嫌だった。まず、そんなところだろう。いかにもジェームズの息子らしい。規則など、屁でもないと思っているに違いない。ポッターは、親も子も高慢だ。
 我輩は、確かに聞いたのだ。帽子がグリフィンドールと叫ぶ前に「むしろ」の一言を付け加えたのを。小賢しそうな顔付きをした奴が、劣等生の吹き溜まりへ行くはずがない。ハッフルパフは、除外だ。レイブンクローなら、嫌がる理由が何も無い。そこへいくと、我輩の寮は――ウィーズリーの人間が、入学初日であれほど親しげにしているということは、当然この寮についてあること無いこと賑やかにまくし立てているのだろう――いろいろな噂を、ここへ来るまでに耳にするはずだ。大方、この寮の悪口でも吹き込まれたのだろう。それを素直に信じるとは、ポッターも浅はかなことだ。
 いずれ、この寮を選ばなかったことを後悔する時が来るに違いない。その時の、奴の顔が見物だ。
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 一年生の様子が、他の教授達から伝わってくる。どうやら、いまのところ奴はしっぽを出していないらしい。
 フリットウィックは出席を取る時に興奮して、本から転げ落ちたそうだ。奴の名前を呼ぶのが、そんなに嬉しいとは。どうかしている。
 我輩は違う。そうやって特別扱いにするのは、本人のためにならない。できるだけ、他の生徒と同じように扱わねば。増長など、絶対にさせるものか。
 明日は、いよいよ我輩の授業が始まるわけだ。楽しみにしているがいい、ポッター。

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 今日は金曜日だ。最初の週が、無事過ぎた。例の物も、厳重に保管されている。まずは一安心、といったところだ。
 我輩の寮との合同授業と知って、奴はずい分嫌がっていたそうだ。授業での無礼な態度も、きっとそのせいだろう。
 昨日研究室に来たミスター・マルフォイからは、興味深い話を聞いていた。特に、列車での奴の態度については、マルフォイが怒るのも無理はなかろうと思った。そこで我輩は、奴の親も鼻持ちならない人間だったのだと言って、彼をなぐさめてやった。可哀想に。よほど傷付いたのだろう。目を赤くして、我輩の言葉にうなずいていた。
「ポッターのことを愚痴りに来たんじゃないんです。先生は、闇の魔法をいろいろご存じだそうですね。何故、魔法薬学の講義を担当なさっていらっしゃるんですか? 上級生が、先生なら闇の魔術の防衛術も教えられるはずだって」
 我輩をまっすぐに見上げて、マルフォイは目を輝かせている。黙っていると、彼は更に言葉を続けた。
「僕、もちろん明日の魔法薬学の授業も楽しみにしてます。でも、クィレル先生の授業は、何だか物足りなかったので。あれが先生の授業なら、もっと良かったのかもしれないって。そう思って」
 彼は、もしかしたら一握りの部類に入るのかもしれない。そう思った我輩は、彼にいくつかの質問をした。教科書を一通り読めば、嫌でも目に入ってくるような初歩的な事柄ばかりとは言え、彼はその全てにスラスラと淀みなく答えた。
 君は、学ぶための準備ができているようだ。感心なことだが、どうやら君の興味は闇の魔法に向けられているようだな。ならば何故、ここへ来たのだね? それを学ぶのにふさわしい場所が、他にあると思うが。
 そう尋ねると、彼は少し顔を赤らめて言ったものだ。校長と知り合いなこともあって、父上は僕をダームストラングへやりたかったのですが。母上が遠すぎると反対したので、と。
 なるほど。ダームストラングは、闇の魔術のカリキュラムで有名だ。あのルシウスなら、一人息子をそこへやりたいというのは、ごく自然な考えだろう。
 それにしても、この少年は小生意気なポッターとは大違いだ。奴は、周りがチヤホヤするものだから頭に乗っているのだ。やはり、早い内にピシャリと叩いておかねばと思ったのは、大正解だった。
 今日の授業――。思い出しても、気分が悪い。ポッターは人を小馬鹿にした態度だし、ロングボトムは救いがたいうすのろだ。おまけに、グレンジャー! あの娘は、人から何かを聞かれるまで黙っているということができないのか?
 全く、どいつもこいつも。しかし、何故それが皆グリフィンドール生なのだ? その点、我輩の寮生はありがたいことに違う。中でもマルフォイは、思った通り見所があるようだ。我輩の言葉を聞き漏らすまいと、一生懸命、身を乗り出さんばかりにしていた。あの時の、うっとりと聞き入っている彼の目ときたら。まさに、教師冥利に尽きる。
 研究室で、我輩は彼に尋ねた。君は何故、魔術や魔法について学びたいのかと。熱心なのはいいことだが、その目的は何なのかと。それに対する答えは、申し分のないものだった。彼はこう答えたのだ。「目的なんて、考えたこともありません。ただ、知りたいんです。――そういうのは、良くないんでしょうか」と。
 良くないどころか! それこそ、学問に対する正しい姿勢と言うべきだ。恥ずかしそうに身を縮めているマルフォイに、我輩はできる限り優しい声で自分の思うところを語った。即ち、世俗の栄達を手に入れるためにする学問など、邪道だと。真理の追究に必要なのは知への純粋な好奇心であり、卒業後に自分が社会に占める地位をより高くしたいという出世欲ではないのだと。
 わからないことがあれば、いつでも研究室に訪ねて来るがいいと言うと、彼はパッと顔を輝かせた。こういう、素直に人の教えを聞く耳を持つ、やる気のある生徒がいて、本当に良かった。我輩も、授業をする張り合いがあるというものだ。
 彼の角ナメクジのゆで加減ときたら。実に絶妙だった。ロングボトムのお陰で、あれを他の生徒に見せられなかったのが残念だ。
 ポッターは、隣で作業をしていたのだ。ロングボトムが間違ったことをしでかす前に、一言注意をしてやるべきではないか。きっと、わざと声をかけなかったに違いない。だから、減点したのだが。奴は不服そうだった。
 とにかく、奴から目を離さないことだ。授業中はもちろんのこと、いつでも、どこででも。あの反抗的な目。奴は、そのうち何かをやらかす。絶対にだ。
 闇の力の息吹を、間近に感じる。それだけでも、十分神経をすり減らしているのに。その上、奴だ。全く、頭が痛いとはこのことだ。

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 我輩は奴を特別扱いしないように腐心しているが、その努力を嘲笑うかのようにマクゴナガルが奴に箒を与えた。よりにもよって、ニンバス2000だ。
 一年生は自分の箒を持ってはならないという規則があるのは、生徒の安全を考えたら当然の処置だ。魔法使いの家に生まれた子供とて、全員が空を飛ぶのに熟達して入学してくるとは限らないのだから。一年生にクィディッチをやらせるなど、正気の沙汰とは思えない。ダンブルドアも奴には相当甘いのが、これで実証された。憂鬱だ。

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 奴はまたしても自分が特別扱いされたことで、浮かれているようだ。中庭でいつもの二人と何やら企んでいる様子なので、近寄って行ったのだが。
 ――何かを隠している。そんなことはすぐにわかったが、三人を問い詰めている時間が我輩には無かった。それで、奴が持っていた本を取り上げた。別に、我輩は難癖を付けたわけではない。本は校外持ち出し禁止なのだし、中庭は勉強するために本を読む場所ではない。寮の談話室、自室。校内には、自習のための場所がいくらでもある。
 本を渋々差し出した奴は、我輩をあの可愛げのない目で睨み付けた。ウィーズリーの末息子が、ちらちらと我輩の脚に目を向けていたが。この間のトロール騒ぎといい、どうもこの三人はトラブルメーカーだ。間違っても、例の物に関する詮索などしないでもらいたいものだ。仕事がしにくくて仕方ない。
 ポッターは、あれから職員室をのぞくという暴挙までしでかした。抜け目がないというか、礼儀をわきまえないというか。どうして奴は、ああなのだ? ジェームズの嫌なところを、何もそっくりそのまま受け継がなくとも良かろうに。
 明日は、いよいよ奴のデビュー戦だ。対戦相手は、我輩の寮。学校中が、試合に釘付けになるだろう。人に知られぬように、己のなすべきことをなさねばならない。全く、難しい注文だ。
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 今日は酷い目に遭った。誰がやったのかは知らんが、マントの裾に火を付けた者がいる。気違い沙汰だ。
 大体、犯人の目星はつく。ポッターの仲間、あるいは奴を贔屓にしている者で、人混みにまぎれてすばしっこく動ける者。――グレンジャー。あの娘なら、人の服を燃やす位のことはしかねん。
 人から誤解を受けるのには、いい加減慣れているつもりだ。しかし、我輩が奴を殺すだと? 絶対に、そんなことはあり得ない。奴が入学してくるまでの年月を、我輩が一日千秋の思いで待っていたことなど。誰にもわかるまい。
 すぐに気づいた。奴の箒が、奴の自由にはならなくなったことを。あんな技ができるのは、闇の魔術しかない。そして、それに長けている者は……。
 許さん。我輩は、さんざん待ったのだ。不本意にもジェームズに借りを作ってからこの方、それを清算する機会を。あいにく、ジェームズは死んでしまった。だが、息子がいる。憎たらしいほどそっくりの、闇の勢力に付け狙われ、それでも命を取り留めている、あのハリーが。
 我輩は、これから至福の七年を過ごすのだ。こんな早々に奴に死なれては、つまらないではないか。
 我輩の楽しみを奪おうなど、いい度胸だ。あの男は、こちら側に立ち戻る気はもう無いのか。この件で、彼とは一度よく話し合わねばならないだろう。

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 クリスマス休暇で、大部分の生徒達は帰宅している。残っているのは、ごく少数だ。
 ところが、その居残り組の中には奴がいる。何も起きないはずが無いと思っていたら、案の定。奴はまた、規則を破った。今度は、真夜中に図書館の閲覧禁止の棚で、何やら漁っていたらしい。
 フィルチと共に辺りを探したが、奴は既に逃げ去ったあとだった。いろいろな事柄から判断するに、どうも奴は学校に何が保管されているか、嗅ぎ付けたらしい。厄介なことだ。どうせ、我輩があれを盗もうとしていると、奴は思い込んでいるのだろう。見当違いも甚だしいが、脚の怪我をのぞき見られた以上、それも仕方ない。
 豚は地面を嗅ぎ回って、地中の物を掘り返す。ポッターも同じだ。あれは、持って生まれた性格だ。例え罰を受けたところで、直るとは思えない。
 しかし、奴はどうやって我々の目をかすめて逃げおおせたのか。透明マントでも持っていれば、話は別だが。誰かが奴に差し入れたとでもいうのか? ふん。ご友人の多いことだ。
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 闇の魔術を奴に仕掛けさせないために審判を買って出た我輩の心など知らずに、奴は試合開始から五分も経たずにスニッチを掴んだ。これで、余程のことが無い限り、寮杯はグリフィンドールの物となったわけだ。
 六年連続で我がスリザリンが寮杯を手にしていたのだが。七年目の快挙とは、ならないようだ。
 学校中が、この試合を観戦していた。ダンブルドアもだ。彼もまた、奴に闇の力が及ばないよう、監視するために出てきたに違いなかった。
 試合前から、競技場が異様な興奮に包まれているとは思っていたが。奴の友人のロン・ウィーズリーときたら、マルフォイの目に青あざを作っていたとは。何たる野蛮。
 これからは、一層ポッターの徒党を厳しく見張らなくては。奴らは、ギャングも同然だ。寮杯に王手をかける貢献をしたことで、きっとつけ上がるに違いない。気合いを入れねばならん。
 あの男とは、最早話し合いの余地は無いようだ。気の毒だが、我輩にはどうしてやることもできない。自ら破滅を選んだのは、あの男なのだから。

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 実験を終え、研究室を出るのがすっかり遅くなってしまった我輩のもとに、ガウンを羽織り、ヘアネット姿のマクゴナガルがマルフォイを連れて現れた。頭から湯気を吹き出しそうな勢いだ。
 聞けば、天文台の塔にいたのだという。彼は何の理由も無しに、そのような馬鹿げた振る舞いをするはずが無い。恐らく、ポッター絡みだろう。そんな風に思った時、マクゴナガルがスリザリンから二十点減点したと言い、早口でまくし立てた。とんでもない嘘をついて、夜中に校内をうろつくなど。近頃は校内でさえ危ないというのに、一体何を考えているのかと。
 マルフォイは、涙目で我輩に訴えていた。嘘ではない、それは本当のことだと。我輩はうなずくと、マクゴナガルの方に向き直った。確かに、彼は校則違反をした。しかし、話を聞いてやる必要はあるでしょうなと。
「ハリー・ポッターが、ドラゴンを連れて来ると言ってましたわ」
 苦々しげな笑みと共に、マクゴナガルはマルフォイの耳から手を放した。引き連れてくる間中、ずっと掴まれていたのか。気の毒なほど、耳は真っ赤になっていた。
 そんな嘘に引っかかって、ベッドを抜け出したマルフォイの軽率さについては、我輩がよくたしなめておく。だが、作り話でマルフォイを陥れようとしたポッターも、罰を受けるべきではないのか。そう指摘した我輩に、マクゴナガルは厳しい顔で断言した。
 もしポッターが塔のあたりをうろついているのが見つかったら、マルフォイ以上の厳罰を科すつもりだと。
 その瞬間、マルフォイの目が大きく見開かれるのを、我輩は見た。部屋を出て行くマクゴナガルを見送る彼の顔には、薄い笑いが浮かんでいた。
「ご迷惑をおかけしました、先生。でも、信じて下さい。森番のハグリッドが、ドラゴンを卵から孵してこっそり飼っていたんです。ポッターもウィーズリーもグレンジャーも、みんなグルなんです」
 それで、君は何故そのことをすぐに我輩に知らせなかったのだね。自分で奴らのしっぽを捕まえたいという気持ちは、大いにわかるが。少々、思慮が足りなかったとは思わんかね?
 我輩が苦笑するのを見て、マルフォイはしゅんとした。ウィーズリーの末息子が、ルーマニアでドラゴンの研究をしている兄に宛てた手紙を、手に入れたのだと。成長したドラゴンを旅立たせようとする一味を現行犯で押さえれば、この間のクィディッチの試合の時に殴られた、いい仕返しになると思ったのだと。
「寮の点数を減らすつもりなんて、なかったんです。僕は大変なことをしてしまった」
 また目を潤ませる彼を、我輩は部屋まで送っていく間中なぐさめていた。まあ、明日の朝のグリフィンドールの得点を、よく眺めることだと。マクゴナガルの性格は、よく知っている。彼女は、言ったことは必ず実行する。となれば、医務室で寝ているウィーズリーはともかく、グレンジャーはポッターを手伝ったに違いないだろうから、グリフィンドールが首位から転落するのは間違いなかろうと。
「先生……。僕のしたこと、本当に怒ってはいらっしゃいませんか?」
 疲れたろうから、今晩はゆっくり休むといい。我輩はそう言って寝室のドアを開け、マルフォイを中に押しこもうとしたら、おずおずとそんなことを言う。怒ってなどいないということをわからせるために、我輩は頭を撫でてやった。
 ――少しはにかんで笑うのが、何とも可愛らしかった。

*********

 気分爽快だ。何と素晴らしい日だ!
 マクゴナガルは、約束を違えなかった。グレンジャーの他にもバカがいたようで、グリフィンドールは一夜にして最下位に転落した。彼女は、一人に付き五十点を減点したのだった。合わせて、百五十点。大笑いだ。クィディッチで得たリードを、全てチャラにするとは!
 我がスリザリンに寮杯が転がり込んでくるのも、時間の問題だろう。聞けば、レイブンクローやハッフルパフの連中までが、ポッターを恨んでいるそうだ。
 ああ、ポッター。我輩は、初めてお前に感謝したいと思ったぞ。

*********

 試験まで、一週間を切った。例の、ドラゴン騒ぎの処罰が行われた。「森」に、夜の森に子供達を連れて行くなど。ダンブルドアの許可が無ければ、そのような危険な真似などさせるはすがない。彼は何を考えているのだ?
 ダンブルドア……。彼は素晴らしい人物だと思うが。何を考えているのか、時々わからないことがある。
 マルフォイは、真っ青になって震えていた。黒い影がユニコーンを殺して、血を啜っていたのだと言う。――「彼」だ。完全なる復活までの繋ぎに、ユニコーンを利用したのだ。何頭も殺さねばならないところをみると、かなり衰弱していたというわけか。
 時が、近づいている。我々は、考え得る限りの手段で例の物を防御した。しかし、彼はそれを突破してあれを手に入れようとするだろう。
 ダンブルドアは、これまでずっとポッターに手がかりを与えてきた。我輩は、そう信じている。彼のやり方は、一歩間違えばポッターの命を失いかねない。これではまるで、彼と直接対決せよと言っているようなものではないか。
 彼にポッターを殺されるのは、我慢ならん。――ダンブルドアには、彼がポッターを害することはできないと確信する何かがあるのだろうか?

*********

 ダンブルドアは、石を砕いてしまった。世に二つとない賢者の石。これで、彼は当分復活できまい。しかし、それを承知したフラメルもフラメルだが。ダンブルドアは、思い切った決断を下したものだ。
 校内は、えらい騒ぎだ。試験が終わり、その結果発表待ちで暇を持て余している生徒達に、この事件は格好の話題を提供した形だ。皆が、あの忌々しい名前を口にする。
 校内のどこにいても、ポッターの名が耳に入るとは。ちょっとした拷問だ。
 闇の勢力と関わり、結局は身を滅ぼしてしまったクィレル。
 ……我輩は、彼の末路を自戒としよう。

*********

 今日で一年が終わる。多難な年だったが、とにかく奴は無事だ。満足感が、快い倦怠感に変わっていく。これで、我輩は何物にも邪魔されずに、思い出の中のジェームズを憎むことができる。日常が戻ってくるのだ。
 最後のクィディッチの試合に奴が出られなかったせいで、グリフィンドールはレイブンクローに叩きのめされた。グリフィンドール生は、これで最下位決定だとぼやいていたが、我輩はそうは思わない。ダンブルドアのことだ。今回の事件でポッターとその徒党がどんな働きをしたのか。忘れるはずがない。
 ――今年は、真紅と黄金のライオンの垂れ幕に囲まれて、学年度末パーティーを過ごすことになるのだろう。

「もう時間か」
 スネイプは羽根ペンを置き、日記帳を閉じた。
 あの問題児達を、今夜はマクゴナガルも誇りに思うことだろう。
「勇猛果敢で他とは違うか。全く、その通りになったものだ」
 黒いマントの裾をひるがえし、スネイプは部屋を出て行った。浮かべられた笑顔は、歪んではいなかった。

= END =

<あとがき>
 本を読んでいて、無くてはならないスパイスのように随所に散りばめられた、スネイプ語録。取り分け、減点攻撃は無いと調子が狂うってもんである。(でも、2巻は無いんだけどね・笑)
「グリフィンドールは一点減点!」から始まって、五点、十点、五十点と。時折退学処分という物騒な言葉もチラつかせながら、ネチネチといびる彼。実際にハリーが学校からいなくなったら、張り合いが無くて寂しい思いをすることだろう。何ていうか……いつまでも、仲良く(?)ケンカしててね、ってカンジだな。
 もう一つ、書きたかったのは。彼がドラコのどんな所を気に入っているのか、ということ。書いてて楽しい話でした〜。

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