Do Not Forsake Me,Oh My Darling



1.

「おーい、ティファ!」
「何?バレット」
「クラウドからPHSだ。ほらよっ!」
 カウンターの中でカクテルをシェイクしていたティファに向かい、バレットはPHSを投げた。
「もう!危ないじゃないの!――もしもし?ああ、ゴメンね。何でもない。えっ?何なの?」
 怪訝そうな顔をするティファに、バー「セブンスヘブン」常連のバレットが聞き耳を立てる。クラウドというのは、ここのオーナーであるティファの恋人だ。
 少なくとも、ティファの方ではそう思っている。
「怪我人?――女の子って、ちょっとクラウド!」
 どうやらPHSは一方的に切られたらしく、ティファはかなりおかんむりだった。
「信じられないわ、もう!聞いてよ、バレット。クラウドったら、『女の子を拾ったんだけど、
 その子、怪我してるんだ。これから連れて行くから、救急箱用意しといてくれ』って。
 普通その辺で拾ったりする?女の子を。
 第一、クラウドはチューブだからマイナスで大丈夫かもしれないけど、こんな……お店に
 怪我人なんて。困るんだよね」
 マイナス。通常、チューブベイビーはジェノバにかからないとされている。
 だが、ジェノバが現れるより前に生まれている、いまだこの世界の人口の約6割を占める自然出産によって生まれている人間達は、例外無くジェノバに対して陽性の反応を示す。ジェノバはプラスとプラスの人間の体液が混ざり合うことで引き起こされる、自己免疫疾患だ。
 だから、プラスであるティファが怪我人=プラスかもしれない体液を流している人間を忌避するのは、しごく当然のことだった。
 ちなみに、チューブによる計画出産の体制が完全に整ったのは、今から十八年前のこと。二十歳のティファは、もちろんプラスだ。
 ごく稀に、実用段階に移行する前、最終実験段階で生まれたチューブが何らかの理由で廃棄されずにいることが知られている。
 クラウドは、そうしたチューブベイビーの一人だった。
「そうカリカリすんなよ。最近、クラウドとはうまくいってんのか?
 何ならVSSSの世話になったらどうだ?」
「バレットって、最低!」
「へへっ。まあそう言うなって。ほら、今度また新型が出るみたいだぜ」
 店の中に置かれたソリビジョンが写し出しているのは、今や政府以上に人々を支配している大企業・神羅カンパニーの副社長であるルーファウス神羅だった。
 白いスーツを優美に着崩して、にこやかに新型VSSS(Vertual Sex Service System)の説明をしている彼は、噂とは裏腹に繊細で誠実そうな人物に見えた。
「開発は順調、ねえ……。
 この前情報屋のレノがチラッと口を滑らせたけど、とてもそれどころじゃないらしいわよ」
「ま、どっちにしろ、金持ちの娯楽だな」
「そうね。でも、お金持ちならVSSSなんて必要ないんじゃない?
 娼婦を買えば済むことだもの」
「それも違いねえ。だけどな、知ってるか?本物の女じゃ駄目な奴がいるらしいぜ。
 そういう奴らにゃ、無くてはならない必需品ってことになるのさ。
 貧乏人にはそれなりの、金持ちには金持ちならではの。
 どっちにせよ、俺達は神羅カンパニーの提供する快楽の奴隷ってわけだ。
 ――ケッ!いけすかねえ話だぜ」
 毒づくバレットを横目に、ティファは黙ってソリビジョンの3D画像に見入っていた。
 やがて彼女は小さくため息をつくと、首を振ってバレットに向き直る。
「ねえ、彼ってどうやって性欲を処理しているのかしらね」
 ティファの意外な発言にバレットは一瞬目を剥いたが、すぐに笑い出した。
「そりゃ、きっと奴専用の特製VSSSでもあるんだろ。
 いやにスッキリした面してやがるからな」
 へへへっと笑うバレットに、ティファは面白くもなさそうな声でそれもそうね、と答えてカウンターから出た。
 幸か不幸か、店の中に客はバレットしかおらず、ティファはクラウドが帰って来る前に店じまいしようと片づけ始める。
「俺も手伝うぜ、ティファ。まだこの間のツケを払ってねえからな」
「ありがと。取りあえず、表の看板しまってくれる?それから椅子上げてくれると助かるわ」
「オーケイ。任せとけって」
 巨体を揺らして出て行ったバレットだったが、すぐに少女を抱えたクラウドと一緒に入って来た。少女は長い茶色の髪を後ろで一つに束ねていた。ピンクのワンピースに、赤い上着を身に着けている。
 気を失っているのか、くたりとしたまま動かない。よく見れば、足に銃弾がかすめたような跡がある。怪我をしているのは、左腕だった。出血はおさまったらしく、血糊が黒く凝固し始めていた。
「ただいま、ティファ。いきなり電話して、すまなかった」
「お帰りなさい、クラウド。ねえ、この子一体どうしたの?」
「それがさ――」
 クラウドが説明しようとした時だった。不意に外が騒がしくなる。車輌の行き交う音。
 緊急事態が起きているのだと、容易にわかるざわめき。
 やがて、車輌は別のブロックに去って行った。
「何だぁ?今のは疫病管理局の連中じゃねぇか。一体どうしたっていうんだ?」
「さあな。それより、この娘の手当だ。ティファ、救急箱貸してくれ」
「はいはい。使ったガーゼや何かは、その辺に捨てないでね」
「わかってる」
 疫病管理局。ジェノバ対策を専門に取り扱うために設けられた機関である。
 その組織は大きく二つに分かれる。ジェノバに罹患した患者を発見・隔離して病院に収容し、その延命にあたる医療部門と、ジェノバが蔓延するのを防ぐための予防措置を行う捜査部門だ。
 売春組織の摘発は、このところ厳しさを増す一方である。売春組織は、麻薬の供給元でもある。
 従って、ジェノバに罹患して自暴自棄になった人間が麻薬に手を出し、犯罪行為を起こすのを防ぐために摘発するという大義名分が、疫病管理局には存在する。
 実際には、VSSSを始めとして様々な快楽をサービスする神羅カンパニーから疫病管理局に、巨額の献金がなされていることを人々は知っていた。
 売春組織などという物に大手を振っていられたのでは商売上がったり、というわけだ。
 だが、ごく一部の人間だけが知ることだが――その売春組織を裏で仕切っているのもまた、神羅カンパニーなのだった。
 女にしろ男にしろ、そんな商売に使うからにはマイナスの人間でなければならず、それはチューブ以外にはあり得ないからだ。
 神羅カンパニーの前身は、製薬会社だった。
 この会社が幸運だったのは、ジェノバの登場する直前に折良くチューブベイビーの誕生に漕ぎ着けていたことだ。
 人口統制は政府の最重要課題だが、実際に技術を保持しているのは神羅カンパニーで、計画出産よりほんの少しばかり余分に人間を誕生させたところで、それに異を唱えられる者などいなかった。
 政治家も議会も行政組織も、神羅カンパニーに対して反抗できるはずがない。
 金と快楽。大人しく言う事を聞いていれば、上辺だけだがそれに権力というおまけまで付いてくるのだから。
 この世界を支配しているのは、事実上神羅カンパニーなのだった。
 疫病管理局はその支配体制の要であり、尖兵だった。疫病管理局の捜査員が、人々から最も恐れられる所以である。
 噂では、神羅カンパニーの研究のためにジェノバに罹患した人間がサンプルとして送られているという。
 真偽のほどは確かではなかったが、それは人々を震え上がらせるのに十分だった。
「うっ……!」
 銃弾は貫通していたが、左腕を処置される痛みは相当のものだったらしい。少女が身をよじって呻いた。
「しっかりしろ。これから熱がもっと出るだろうけど、真夜中で医者はどこも店じまいだから
 な。朝まで我慢しな」
「医者……ダメ……私、行きたく…な……い」
「何言ってるんだ。
 いま俺がしてるのは応急処置で、ちゃんとしないと腕を無くすことになるぜ」
「それでも……イ…ヤ……」
 少女は脂汗を額に浮かべながらも、必死でそう訴える。
「おい。こりゃ理由ありだな」
 バレットがその様子を見て、眉を顰める。途端に、ティファが不安顔になった。
「まさか、さっきの騒ぎ……!」
 腰のポケットからPHSを出し、どこかにかけ始める。
 クラウドは一瞬嫌な顔をしたが、すぐに少女の汗を拭いてやりながら落ち着かせようと話しかけた。
「君の名前は?俺はクラウド。クラウド・ストライフ。隣りにいるのがバレットで、そこの女の
 子がティファだ。俺はチューブでね。マイナスなんだ。だから、安心していい」
「ごめんなさい…私……覚えてない…」
「覚えてない?」
 クラウドが首を傾げる横で、ティファは情報屋のレノに電話をかけていた。
「レノ?私。ティファよ。ちょっと聞きたいんだけど。何かさぁ、さっきまでこの辺、えらい騒ぎ
 だったのよ。――えっ?うん、そう。相変わらずよ。まあボチボチ、ってとこ。
 ねえ、管理局がどうかしたの?」
 少女は不安そうにティファを見て、クラウドに話しかけた。
「助けてくれて、ありがとう。……ここ、どこ?」
「セブンスヘブンって名前の居酒屋さ。この店、ティファのなんだ」
「――情報料をくれですって!?」
 ティファが大声を上げる。少女がビクッと身を震わせるのがクラウドにはわかった。
 ひどく怯えている。一体何が彼女にあったのだろう?
「冗談じゃないわ!いままでのツケ、ちゃんと全部払ってから言ってよね、そういう事は!
 ――そう。じゃあ後でね」
 通話を切ったティファが、クラウドとバレットに首を振ってみせた。
「確認して、すぐに電話してくれるって。肝腎な時に役に立たないんだから、もう!」
「ソリビジョンのニュース、何かやってないか?」
 薬で傷口を消毒し終わったクラウドが、包帯を巻きながら言った。
「その方がいいかもね。少なくとも、タダだし」
 新製品の宣伝を見るのはたくさんだと消されたソリビジョンに、再び電源が入れられた。
 バレットがリモコンを画面に向け、ニュースチャンネルに切り替えた。キャスターは緊張した面持ちで速報を繰り返していた。
 即ち、神羅カンパニー社内で爆発騒ぎがあり、死傷者が出たこと。
 犯人の目的はわかっておらず、恐らく単なる嫌がらせだろうと思われること。
 社長及び副社長は健在であること――。
「あら、やだ。犯人、まだ捕まってないの?」
「さっきの騒ぎは、非常線を張るための緊急配備だったんじゃねぇか?」
 その時、ティファのPHSが鳴った。
「もしもし?レノ?」
「おい、久々に賞金稼ぐチャンスだぜ。エアリス・ゲインズブールって名前のお姉ちゃんを
 見かけたら、俺に教えて欲しいんだぞっと。
 何だか理由ありらしくてな。神羅がこっそり保護したがってるって話だぞ、と!」
「それ、さっきニュースでやってた爆発騒ぎと何か関係あるの?」
「さあな。ただ、生きてないとダメらしいんだぞっと。見つけた奴には賞金くれるし、その裏
 を取って通報した俺はカンパニーの正社員に採用してくれるそうだぞっと。
 悪くない話なんだな、と!」
「何よそれ!?正社員とはまた、ずい分と豪勢な話じゃない」
「ってことで、ヨロシクな!」
「あ、ちょっと!その子のパーソナルデータ無いの?
 名前だけじゃわからないじゃないの、レノ」
「それがわかれば、俺も苦労しないんだなっと。
 管理局のデータベースにこれから潜り込んでみるわ。じゃな!」
「呆れた……!何が何だかさっぱりわからないわよ、それじゃ」
「何だって言うんだ、ティファ」
「それがね。神羅がある女の子を探してるんだって。
 名前しかわからないけど、その子を生きたまま差し出せば――」
 ティファの目が、少女に注がれた。どうやらバレットも同じ事を考えたらしい。
「――ねえ。まさか、あなたがその尋ね人じゃないでしょうね?」
「ティファ!」
「……神羅なんて、私知らない。名前、わからないし。ここはどこなの?
 見覚えのない所にいきなり放り出されて、銃で撃たれて。
 さっきから、怖いことばかり。私を返して!こんな所……居たくない」
「君のこと、俺達は何も知らないんだ。
 名前を覚えていないって、住んでいた所も覚えてないのか?」
「おい、クラウド。この世界で神羅を知らない人間なんて、いると思うか?
 それだけでも相当理由ありだぜ、その子」
「バレットまで、みんなして何なんだよ!――もういい!この娘は俺が面倒見る。
 それで迷惑はかからないだろ?」
「俺は何もそこまで言ってないぜ?ただ、ちょっと気になるって言いたかっただけだ」
「私はそうしてもらえるとありがたいわ」
 うんざりした様子でティファが言った。
「賞金も厄介事も、私はどっちも御免だわ。怪我人に居られちゃ、商売に差し支えるしね」
「わかった。――さ、行こう。立てるかい?」
 少女に肩を貸すクラウドを見て、バレットはティファに囁く。
「おい。本当にいいのかよ?もしあの子がチューブだったら」
「あの年頃でチューブだなんて、娼婦以外にあり得ないでしょ!
 あの子、そんな感じ全然しないじゃない」
「……知らねえぜ?俺は忠告したからな!」
「余計なお世話よ!――クラウドの、バカ!」
 不思議な雰囲気を漂わせていた少女だった。吸い込まれそうな碧の瞳。抜けるように白い、シミ一つ無い肌。
 あの整った顔立ちは、確かに言われてみるとチューブめいたものを感じなくもない……。
「さて、と。じゃあ片づけの続きを手伝うぜ、ティファ」
「ごめんね、バレット。クラウドのせいで遅くなっちゃったね」
「いいってことよ」
 二人は釈然としない思いを抱えながら、店内の掃除を始めた。
 三、四十分もした頃。ティファのPHSが鳴った。
「もしもし?」
「おい、お前何かヘマやったか?」
「何よ、いきなり。今度は何?レノ」
「管理局の無線交信をキャッチしたぜ。捜査員が今、そっちに向かってる。
 逮捕されたくなきゃとっととそこから逃げるんだな」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!私、何もしてないよ!?」
「じゃあ、そう言う風に言うんだな。とにかく、俺は知らせてやったからな。
 じゃあなっと!」
「バレット!あなただけでも逃げて!疫病管理局が、私達を」
「――もう遅いみたいだぜ」
 武装した兵士が飛び込んできたのは、その瞬間だった。
「手を挙げろ!こちらは疫病管理局だ。無駄な抵抗はやめてもらおうか」
 銃を突き付けられ、手錠を掛けられるバレット。ティファはそれを見て、毅然として言う。
「一体何の容疑で逮捕するんだか、せめて理由を聞かせて欲しいものね!
 私達が、何をしたっていうの!?」
「……指名手配犯の逃亡を幇助した罪だ」
「何ですって!?」
「聞こえなかったの?さあ、大人しくしなさい!」
 管理局の捜査員は、茫然とするティファに手錠を掛けると嬉しそうに言った。
「任務完了しました、ルード先輩!」
「……ご苦労と言いたいがそれはまだだ、イリーナ」
「えーっ?でも、店内にはこの二人しかいませんよぉ?」
「……地下室や隠し部屋が無いかどうか、こういう時は必ず確認しろ。
 それと、これを見ろ」
 ルードと呼ばれた男は、さっきクラウドが少女の手当てに使った医療品がひとまとめにして捨てられているのを指した。
「ここには、怪我人がいた。もしかしたら、逃亡した女かもしれん」
「さすが先輩!目の付け所が違いますぅ☆」
 お前が抜けているだけだと思うが。そんなニュアンスを感じさせるため息を一つつき、ルードはティファのポケットからPHSを取り出した。
「……履歴は消されていないな。よし、お前達はイリーナと店内の捜索だ。
 私は一足先にこいつらを連行して局に戻る」
「はっ!」
 兵士達はバラバラと部屋から出て行った。途端に、ドアや戸棚を開けているらしき物音が響いてくる。
「……イリーナ、後は任せたぞ」
「はい、先輩!終了次第報告しますね!」
「……何かあったら、すぐ連絡しろ。いいな?」
「わかりましたぁ!」
 本当にわかっているのかと頭痛がするのか、ルードは頭を振っている。
 何が何だかわからない内に逮捕されてしまった二人は、今ここで抵抗しても逆に無実を疑われるだけだと観念し、ルードに押し込められるまま車に乗った。
 不安だったが、自分達は何もしていないという思いが二人を支えていた。誤認逮捕なら、すぐに釈放されるだろうと。
 その思いはルードにも伝わる。彼は、この二人を逮捕したのは間違いだったのではないかと思い始めていた。

 その頃、神羅カンパニーでは――。
「ルーファウス様」
「ツォンか。それで?あの娘の始末はどうなっている?」
「疫病管理局の方は、既に手配済みです。ただ」
「何か問題でも?」
「指示を撤回するのは、現場の混乱を招きます。『エアリスは生かしたまま捕らえよ』。
 これが我々からの要請ということになっていますので、あの娘はいずれにしろこちらで始
 末することになりますが」
「フン。仕方ないだろうな。
 『事情が変わった。殺しても構わない』では、確かに外聞が悪い」
「ご理解、感謝致します」
 では、と言って立ち去ろうとしたツォンに、ルーファウスはうっとりとした声で話しかけた。
「長かったが、ようやくあの男から解放された」
 コツン、と強化ガラスの壁を叩くルーファウス。その秀麗な貌に浮かべられた笑みは酷く残酷で、彼の鬱積した思いを知るツォンは思わず背筋がゾクッとする。
「そんな目で見るな。ちゃんと生かしてやっているだろう?
 ――もっとも、期限付きだがな。新型VSSSが出るまでの」
「こんな姿になってまで、プレジデントは生きていたいと思われたかどうか」
 強化ガラスの向こうに存在する物体にちらりと視線を走らせたツォンは、次に数々のケーブル類に目をやり、自分は絶対に御免ですねと暗く笑う。
「VSSSの原理を応用した装置に繋いでやった。外界で起きていることは、あいつにもわ
 かるはずだ。また、そうでなければ面白くない。
 私が世界を動かす様を、あいつには見ていてもらわないとな」
 クックックッ……!と、さも愉快そうにルーファウスは笑う。
 一瞬だけ痛ましい表情を浮かべたツォンだったが、すぐにそれを消す。
 そして、穏やかな微笑みを浮かべてルーファウスに答えた。
「実質は、既にあなたが社長です」
「名目もそうなるさ。近い内にな」
 その言葉に、強化ガラスの中の物体が何かを訴えるように反応した――ようだった。
 ケーブルに電気信号が流れていることはわかるが、それが何を意味するかはツォンにはわからなかった。誰が肉体を失い、脳髄だけの存在になった人間の考えることなどわかるというのだろう?
 もうお休み下さい、今日はお疲れでしょうとルーファウスを労る一方で、彼の酷薄さに心を痛めるツォンだった。

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