坊っちゃんもツライよ
            ――社内研修Part2 宇宙開発部門編――

 


1.
「よお! ふとっちょパルマーじゃねえか。ずい分久しぶりだよなあ?
 ――もうこの村のことなんて、忘れたんじゃねーかと思ってたぜ!」
「うひょひょっ。そりゃないよ〜、シドちゃん。
 実はシドちゃんを見込んでお願いしにきたんだから、今日は」
「あん? てめェがそういう猫撫で声を出す時は、ロクでもない厄介事の前触れだって相場が決まってらァ。どうせ今回もそうなんだろ。違うか?」
「まあまあ。人を一人、預かって欲しいのよ」
「――パルマー。ここは、託児所や老人ホームじゃねぇんだ。
 そういうコトなら、他のヤツを当たりな。俺様は、ゴメンだぜ」
「それがさぁ……本人、とっても楽しみにしてて。
 もう連れてきちゃったんだなぁ。今更追い返せないんだな〜」
「チッ! 勝手なコト抜かしやがる。
 ――で? 誰なんでェ、その『預かってて欲しいヤツ』ってのは?」
「ほら、いまタラップを降りてくるのがそう。ルーファウス坊っちゃん、ワガママでさぁ〜。
 もう大変なんだよねえ。うひょっ、うひょひょひょひょっ!!」
「ちょっと待て。『ルーファウス坊っちゃん』って言ったな、いま!?」
「そ。プレジデントの一人息子。二十歳になれば、副社長。
 いまのうちに恩を売っとくと、あとあといい思いできるかもよ〜、シドちゃん?」
「冗談じゃねえ!! 誰が金持ちのボンボンの面倒見るって言ったよ!?」
「そーんなこと言っていいのかなあ。坊っちゃん、地獄耳だよ〜?」
 それを裏付けるかのように、二人のそばまで来たルーファウスが、にこやかに辛辣な言葉を吐く。
「突然のことで迷惑をかけるな、シド。だがな。私も好きでオヤジの息子に生まれたワケ
じゃない。ボンボン呼ばわりは、やめてもらおうか」
 言葉の鞭で、頬をピシャリと叩かれた気のするシドだ。
「じゃ、そういうことで。シドちゃん、よろしくね。うひょ、うひょひょっ!」
「おい待て、パルマー! てめェ、なに手を振ってんだよッ!?」
「悪いけど、これから本社へとんぼ返り。
 ひと月たったら、坊っちゃん迎えに来るからさ。それまで、頼むわ」
「何だってェ!? ちょっと待て! おい!!」
 だが、パルマーはうひょっ、うひょひょっと笑って一目散にハイウィンドへ駆けていく。
 呆然とするシドを、ルーファウスは少し気の毒そうな顔で見つめると、ポンポンと肩を叩いて言った。
「――とにかく、ここで立ち話をするのも疲れる。お前の家へ案内してもらおうか」
 やがて上昇を始めたハイウィンドに向かって、シドの口からあらん限りの罵声が飛んだ。
 何とも賑やかな研修の始まりである。