Miss'n you…… いつからだろう。あの人に会えるのが楽しみになったのは。 初めは、女の子なら誰にでも声をかける軽い人だと思ってた。でも、私には少し違ってた。 その事に気づいたのは、いつだったんだろう? 「――ゴメン! 待った?」 「おっそーい!! 待ちくたびれちゃったよ、もう」 「急な仕事が入ってさ〜。これでも速攻で片づけて来たんだぜ? ――ったく! 何で本社の中でモンスター相手に戦わなきゃならないんだか。宝条のヤツも人使い荒いぜ」 「ウ・ソ」 「へ?」 「ザックスったら、凄い勢いで走って来るんだもん。ちょっとからかってみただけ! フフッ。本気で怒ってると思った?」 「なぁんだ……」 そう言ってヘナヘナとくずおれるあなたに、私はおねだりしたんだっけ。 「ね。ゴールドソーサーに連れてって!」 「いいけど……ミッドガルからじゃ、泊まりがけで行くようになるぜ? お母さん、許してくれるのかい?」 「もちろん、ちゃんとうちにあいさつに来てね。ソルジャーはダメって言ってるけど――ザックスのこと見れば、多分気に入ってくれると思う」 「お母さんはだんなさんをウータイ戦役で亡くしたんだったね」 「うん。ザックスみたいなソルジャーじゃなくて、一般兵だったの。『兵隊だけはやめておきな。帰って来ないとわかっていて、それでも諦めきれずに待ち続けるのは辛いよ。こんな思い、お前にはさせたくないんだよ、エアリス』っていつも言ってるの。お母さんは、本当はミッドガルを出たがってるの。でも……もしかして、お父さんが帰って来たら。その時自分があの家にいなかったら、って。それに、私のこともあるし」 「びっくりするよなあ。エアリスがあのセフィと同類だ、なんてさ。全然雰囲気違うもんなあ」 「初めて本当のお母さんから言われた時も、よくわからなかったの。私、ただの女の子だよ? 特別な力なんて、何も持ってない。古代種だから特別な人間なんだ、って言われても……実感湧かない。それを言うとね、ツォンが笑うのよ。『タークスと普通に話ができる人間なんて、そういない。それだけでも大したもんだ』ってね。だから、私言ったの。『小さい頃からずっと見張られていれば、いい加減慣れてくるわ』って。それにね、正直言うと――彼には監視されてる気がしないの。ううん、守られてるんだよね、きっと。プレートとスラムを行ったり来たりできるのは、これがあるお陰だもの」 「ミッドガル−スラム各駅を結ぶ列車の無期限パス、ね……。そんなの持ってるのは、エアリス位のもんだろうな」 「私、ズルイよね。神羅に協力はしないから、って言っておきながら、こういう事だけは恩恵を受けてるんだもの。スラムでいざこざがあった時、助けてくれるのはツォンだし……」 「――気にするなって! 神羅はエアリスを利用しようとしてるんだから、エアリスが同じ事したってお互い様さ」 「ありがと、ザックス」 「さて、と。これからどうする?」 「私、お芝居観たいな! ね。ザックスはもう誰かと観たことある?『LOVELESS』」 「うーん、前に一度……。でも、あれは観たとは言わないなあ。前の日、夜勤でさ。ずっと寝てて、ついでにフラれた」 「まあ!」 「じゃあ、8番街に行こうか?」 ザックスといる時は、普通の女の子でいられたんだよね。ごく普通のカップルがするようなお喋りにデート。 ねぇ……でも、それがどんなに嬉しかったか。あなたにはわかってたのかな? 屈託なく笑うあなたが、大好きだった。突然それが見れなくなるなんて、考えもしなかったの。 ――どこへ行ったの? でも私、その答えは知ってる。知っていて、お母さんと同じ事をしてる。絶対帰ってきてくれるよね。私、信じてる。待ってるから。 「ごめん、ちょっとドジッたんだ。でも、もう大丈夫だからさ」 そんな風に、ある日突然戻ってくるんだよね、きっと。 ――ね。それでも、ずっと一人で待ってるのはツライの。寂しいの。思い切って、ツォンにも調べてくれるように頼んでみたんだよ? でも、調査の結果……聞くのはやめたの。書類で確認したら、心の中のあなたまでいなくなっちゃいそうな気がしたから。 何故古代種は星の声が聞こえるの? 私、ちゃんとわかってる。本当はもう、ザックスは星に還ったんだってこと……。 私にお別れを言いに来てくれたの、気づいてた。それでも――信じたかった。いつかあなたが帰って来るって。 あなたを永久に失ったなんて、そんなの耐えられなかった。 ツォンは何も言わないけど、あの人、私にウソつくのは苦手だから……。さっさと私を連れて来ない彼に、プレジデントが痺れを切らし始めてるんだって話も聞いたよ? いつかツォンとは敵になる。それは出会った時からの運命で、私達にはどうしようもないもので。それでも、私は――彼に会えて良かったと思う。彼の優しさに触れることができて、良かったと思う。 ザックスがいなくなって、心の中にすきま風が吹いてる。寒いの。それでも凍えずにすんだのは、彼のお陰。きっとそんなこと、ツォンは気づいてもいないけど。 それに、お母さん――。ごめん、ごめんね。私、お母さんが一番見たくないって口癖のように言ってたのに、結局同じ姿を見せちゃって。「次は絶対ソルジャーなんか選ばないから」って強がってみせたけど、私……当分誰かを好きになれそうにない。 古代種の力って、何? 私知らない。わからない。 星の声がかすかに聞こえる、好きな人が星に還るのがわかる。そんな力、何の役に立つの? こんな時、本当のお母さんがいてくれたら――イファルナお母さんなら、何か教えてくれるのかな。 私、お母さんが言ったこと、まだ実現できてない。 「あなたはあなたの約束の地を見つけるのよ、エアリス」 そう言っていたイファルナお母さん。ミッドガルを出なさい、って。そうも言ってた。 「ここはもうダメ。この地は土も空気も死んでいるの」 神羅に監視されてる私が、どうしてミッドガルを出られるの? そんなの無理だよ。でも、いつか。ここを出て外の世界に行けたら――探してみるね。 そして今日も、私は帰らぬ人を待ちながら花を売る。雑踏の中にあの人の姿を探す。 無駄なこと? そうかもしれないけど。私は――何もしないでいられるほど、強い人間じゃないの。 みんなが言うの。「エアリスは強いから」って。そうかなぁ? そう見えるだけかもしれないって、そんな風には考えないのかな。 本当の自分をわかろうとしてくれる人は、なかなかいないから。 私、やっぱり……あなたにもう一度会いたい、ザックス……。 |