Miss'n you……

1.
 いつからだろう。あの人に会えるのが楽しみになったのは。
 初めは、女の子なら誰にでも声をかける軽い人だと思ってた。でも、私には少し違ってた。
 その事に気づいたのは、いつだったんだろう?

「――ゴメン! 待った?」
「おっそーい!! 待ちくたびれちゃったよ、もう」
「急な仕事が入ってさ〜。これでも速攻で片づけて来たんだぜ? ――ったく! 何で本社の中でモンスター相手に戦わなきゃならないんだか。宝条のヤツも人使い荒いぜ」
「ウ・ソ」
「へ?」
「ザックスったら、凄い勢いで走って来るんだもん。ちょっとからかってみただけ! フフッ。本気で怒ってると思った?」
「なぁんだ……」
 そう言ってヘナヘナとくずおれるあなたに、私はおねだりしたんだっけ。
「ね。ゴールドソーサーに連れてって!」
「いいけど……ミッドガルからじゃ、泊まりがけで行くようになるぜ? お母さん、許してくれるのかい?」
「もちろん、ちゃんとうちにあいさつに来てね。ソルジャーはダメって言ってるけど――ザックスのこと見れば、多分気に入ってくれると思う」
「お母さんはだんなさんをウータイ戦役で亡くしたんだったね」
「うん。ザックスみたいなソルジャーじゃなくて、一般兵だったの。『兵隊だけはやめておきな。帰って来ないとわかっていて、それでも諦めきれずに待ち続けるのは辛いよ。こんな思い、お前にはさせたくないんだよ、エアリス』っていつも言ってるの。お母さんは、本当はミッドガルを出たがってるの。でも……もしかして、お父さんが帰って来たら。その時自分があの家にいなかったら、って。それに、私のこともあるし」
「びっくりするよなあ。エアリスがあのセフィと同類だ、なんてさ。全然雰囲気違うもんなあ」
「初めて本当のお母さんから言われた時も、よくわからなかったの。私、ただの女の子だよ? 特別な力なんて、何も持ってない。古代種だから特別な人間なんだ、って言われても……実感湧かない。それを言うとね、ツォンが笑うのよ。『タークスと普通に話ができる人間なんて、そういない。それだけでも大したもんだ』ってね。だから、私言ったの。『小さい頃からずっと見張られていれば、いい加減慣れてくるわ』って。それにね、正直言うと――彼には監視されてる気がしないの。ううん、守られてるんだよね、きっと。プレートとスラムを行ったり来たりできるのは、これがあるお陰だもの」
「ミッドガル−スラム各駅を結ぶ列車の無期限パス、ね……。そんなの持ってるのは、エアリス位のもんだろうな」
「私、ズルイよね。神羅に協力はしないから、って言っておきながら、こういう事だけは恩恵を受けてるんだもの。スラムでいざこざがあった時、助けてくれるのはツォンだし……」
「――気にするなって! 神羅はエアリスを利用しようとしてるんだから、エアリスが同じ事したってお互い様さ」
「ありがと、ザックス」
「さて、と。これからどうする?」
「私、お芝居観たいな! ね。ザックスはもう誰かと観たことある?『LOVELESS』」
「うーん、前に一度……。でも、あれは観たとは言わないなあ。前の日、夜勤でさ。ずっと寝てて、ついでにフラれた」
「まあ!」
「じゃあ、8番街に行こうか?」
 ザックスといる時は、普通の女の子でいられたんだよね。ごく普通のカップルがするようなお喋りにデート。
 ねぇ……でも、それがどんなに嬉しかったか。あなたにはわかってたのかな?
 屈託なく笑うあなたが、大好きだった。突然それが見れなくなるなんて、考えもしなかったの。
 ――どこへ行ったの?
 でも私、その答えは知ってる。知っていて、お母さんと同じ事をしてる。絶対帰ってきてくれるよね。私、信じてる。待ってるから。
「ごめん、ちょっとドジッたんだ。でも、もう大丈夫だからさ」
 そんな風に、ある日突然戻ってくるんだよね、きっと。
 ――ね。それでも、ずっと一人で待ってるのはツライの。寂しいの。思い切って、ツォンにも調べてくれるように頼んでみたんだよ? でも、調査の結果……聞くのはやめたの。書類で確認したら、心の中のあなたまでいなくなっちゃいそうな気がしたから。
 何故古代種は星の声が聞こえるの?
 私、ちゃんとわかってる。本当はもう、ザックスは星に還ったんだってこと……。
 私にお別れを言いに来てくれたの、気づいてた。それでも――信じたかった。いつかあなたが帰って来るって。
 あなたを永久に失ったなんて、そんなの耐えられなかった。
 ツォンは何も言わないけど、あの人、私にウソつくのは苦手だから……。さっさと私を連れて来ない彼に、プレジデントが痺れを切らし始めてるんだって話も聞いたよ?
 いつかツォンとは敵になる。それは出会った時からの運命で、私達にはどうしようもないもので。それでも、私は――彼に会えて良かったと思う。彼の優しさに触れることができて、良かったと思う。
 ザックスがいなくなって、心の中にすきま風が吹いてる。寒いの。それでも凍えずにすんだのは、彼のお陰。きっとそんなこと、ツォンは気づいてもいないけど。
 それに、お母さん――。ごめん、ごめんね。私、お母さんが一番見たくないって口癖のように言ってたのに、結局同じ姿を見せちゃって。「次は絶対ソルジャーなんか選ばないから」って強がってみせたけど、私……当分誰かを好きになれそうにない。
 古代種の力って、何? 私知らない。わからない。
 星の声がかすかに聞こえる、好きな人が星に還るのがわかる。そんな力、何の役に立つの?
 こんな時、本当のお母さんがいてくれたら――イファルナお母さんなら、何か教えてくれるのかな。
 私、お母さんが言ったこと、まだ実現できてない。
「あなたはあなたの約束の地を見つけるのよ、エアリス」
 そう言っていたイファルナお母さん。ミッドガルを出なさい、って。そうも言ってた。
「ここはもうダメ。この地は土も空気も死んでいるの」
 神羅に監視されてる私が、どうしてミッドガルを出られるの? そんなの無理だよ。でも、いつか。ここを出て外の世界に行けたら――探してみるね。
 そして今日も、私は帰らぬ人を待ちながら花を売る。雑踏の中にあの人の姿を探す。
 無駄なこと? そうかもしれないけど。私は――何もしないでいられるほど、強い人間じゃないの。
 みんなが言うの。「エアリスは強いから」って。そうかなぁ? そう見えるだけかもしれないって、そんな風には考えないのかな。
 本当の自分をわかろうとしてくれる人は、なかなかいないから。
 私、やっぱり……あなたにもう一度会いたい、ザックス……。


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