――ここはどこだ? 目を覚ましたルーファウスは、キョロキョロとあたりを見回した。 「何だ? 視界が悪いな……」 そうつぶやいて、はたと気づく。自分は、いまどこにいる? 確か、ついさっきまでミッドガル本社の社長室で対ウェポン迎撃の指揮をとっていたはずなのだが。 「ウェポンから吐き出された光がまっすぐ向かってきて、凄まじい爆風に身体を嫌というほど壁に叩き付けられて。熱で床がグニャリと溶けていて、血を吐いたらジュッと音を立てて蒸発したんだよな。――ちょっと待て。私があの状態で生きてるはずがないよな?」 したくない確認を、してしまった。そうだ。自分は死んだのだ。まだまだやりたいことは腐るほどあったのに。若死にしたと人の紅涙を誘う母でさえ、自分よりは生きている。 「じょっ、冗談じゃないぞ! オヤジのようにやりたい放題の人生送ったのならともかく、この私が何でこんな早くに死ななきゃならない!? そんなの、おかしいじゃないか!!」 抗議してみるものの、答えの返るはずはない。 「ヒドイな……」 肉体はないはずだが、自分はいま涙を流している。何故か、そう感じた。 周囲には何もなかった。ただ、一面のもやが広がる世界。しかし、その色には見覚えがあった。青とも碧ともつかぬ、魔晄の色。自分を破滅へと誘ったそもそもの原因。 「死んでからまで魔晄エネルギーとは縁が切れないのか。いや、違うな。魔晄エネルギーとは、星の生命だ。となると、これは……まさか、ライフストリームそのもの!?」 彼の言葉を待っていたかのように、頭の中に声が響いた。 「ようやく気づきましたか。ルーファウス神羅、あなたは既に肉体を失っています。人間が『死』と呼ぶ状態に、いまあなたは置かれているのです」 「フン。死んでからまで私は星の敵というわけか? ここは天国じゃなさそうだな」 「でも、地獄ではありませんよ。それに、確かにウェポンはあなたを攻撃しましたが、あれは仕方のないことです。過度の魔晄エネルギーが地に満ちる時、それに反応して行動を起こすのがウェポンのプログラムです。ウェポン自身に、感情は存在しません」 「それで? お前は一体何者なんだ。まさか神だなんて言わないだろうな」 「いいえ。私は、人間達が星の声と呼ぶもの。強いて言うなら集合生命体――でしょうか。ご存じのように、この星に生きるもの全ては死ぬと生命エネルギーが肉体から離れ、ライフストリームと呼ばれる大きな生命エネルギーの流れに合流します。個人としての記憶は徐々に失われ、やがてその生命エネルギーは別の形をとって再び形あるものとしての生を得ることになるのです」 「お前は、いわばその代表というわけか?」 「そう考えれば理解が早いのなら、それで問題ないですよ」 「では、何故私にこうして話しかける?」 「それはあなたが、肉体を失ってもなおルーファウス神羅であることにこだわっているからです。あなたの業は深い。そのままでは、あなたはライフストリーム本流にいつまで経っても合流できないでしょう。あなたの想いは、昇華されなければなりません」 「つまり、ウータイ風に言うと『いつまでも成仏できずにさまようぞ』ということだな?」 「はい。その状態は、あなたにとってとても苦しいものとなります。それが『地獄』というわけですね」 生きている時、ルーファウスは星の声など聞いたことがなかった。本当に実在するのかと疑ったものだが、こうしてみると古代種達が生命エネルギーを大切にしていたというのもよくわかる。 「確かに、私にはやりたかったことが山積みであったさ。でも、自分一人の楽しみのために権力を行使したことは――誓って言うが、一度もないぞ!」 「知ってますよ。あなたより先に、あなたのことを心から思っている人間が来ましたからね」 「――ツォン!?」 「会いたいですか? しかし、いまのあなたでは無理でしょう。あなたはいまだに、肉体の目で物を見ようとしている。精神エネルギーとなったいま、そのやり方では盲人と変わらない」 「想いを昇華するって……でも、どうやって?」 「こういうのはいかがでしょう。もしあなたが、ルーファウス神羅でなかったとしたら」 「私が、私でない……?」 「あなたがさんざん望んでいたことですよ。それが現実だったら? あなた、人生をやり直せるものならそうしたいと願ったでしょう。肉体が消滅する、その瞬間に」 「もしあいつだったら、今頃星を救う旅をしていたのは私だったのにな、とは思ったが」 「論より証拠。逆の立場だったら、あなたや世界はどうなったのか。見てみませんか?」 「できるのか!?」 「簡単です。――さあ!」 そして、ルーファウスの意識は再び白濁した。 |