坊っちゃんもツライよ
              ――社内研修Part1 都市開発部門編――

 


1.
 事の起こりは、役員会でのプレジデントの一言だった。
「ルーファウスが十八歳になったら、副社長として私の手伝いをさせようと思っているんだが――あれも強情だからな。一度嫌と言ったら、てこでもミッドガルへ来るつもりはないらしい。困ったもんだ」
 母親が亡くなった時の父親の態度があまり酷すぎるというのでケンカして、ルーファウスがミッドガルへの出入りを禁じられて早九年が経つ。
 もちろん、プレジデントはとっくの昔にそんなバカげた命令を撤回している。ところが、これ幸いと逆手に取って、ルーファウスはコスタ・デル・ソルで気ままな日々を過ごしていた。
 何より、彼には母親から受け継いだ自身の財産がある。嫌な父親に頭を下げなくても、生活に何の問題もない。端から見れば、まさに「いいとこのボンボン」としての生活をエンジョイしていたのだ。
「あら、お言葉ですけれど。あの坊やに、いきなりこの複雑な会社(システム)が理解できるのかしら。大体、本社の中で迷子にならずにいられるかしらね? ――キャハハハッ!」
「それに、副社長といっても一体職掌はどうなさるおつもりなんです、プレジデント。私の部門はいろいろ機密事項が多い。プレジデントに直接ご判断願わなければならないことばかりですぞ。副社長にご決裁いただくようなことがあるとも、思えませんが。まあ、邪魔しないでいただけるのでしたら、反対はしませんが。ガハハハハ!」
「兵器開発部長! それに、治安維持部門統括! ルーファウス様に対していまの言葉……あまり非礼が過ぎるのでは?」
「うひょひょ、リーブちゃん。坊っちゃんのことになるとがぜんヤル気が出るみたいだねえ。いやあ〜、熱い、熱い」
「あの方がミッドガル育ちでないから、次期社長として不適当だとでも言いたいのか!?」
「だってねぇ。自分のビルのことだってロクに知りもしない子供に、高飛車に命令される覚えはないわよ。っていうか、ジャマだわ」
「フム……スカーレット君の意見も一理あるな。確かに、あれはこの街のことをよく知らん。それを快く思わない社員も、中にはいるだろうな」
「でしたら、プレジデント。提案があります」
「何だね、リーブ君」
「副社長になられる前に、ルーファウス様には各部門の仕事についてご理解いただけるよう我々がレクチャーさせていただく……というのは、いかがでしょう」
「つまり、副社長の見習い期間を設けよ、ということだな?」
「はい」
「それは面白い考えだな。――よし。半年づつ二年間、持ち回りであれの面倒を見てもらうとしよう。そして、二十歳になった時、あれに正式に副社長の椅子を与えるとしよう。異存はないな? パルマー君、ハイデッカー君、スカーレット君」
「もちろんです」
 三人の声が、和音をなす。
「それで? 誰が一番乗りなの?」
「そりゃ決まってる。迷子になられたら困るからな。当然――」
「うひょっ、リーブちゃん! よろしく。大変だねえ、うひょ、うひょひょっ!」
 こうして、コスタ・デル・ソルで気ままな暮らしを満喫していたルーファウスは、次期社長となるべくミッドガルで「研修」を受けることになったのである。